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まぼろし

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オシゴトの研修で訪れた、広島県福山市の映画館<シネマモード>でたまたまやってて、空いた時間にちょうどよかったので観てきました。
フランソワ・オゾン監督、シャーロット・ランプリング主演、2000年のフランス映画。
日本公開当時、たしかママンと一緒に観に行ったんだけど、約10年前の正真正銘コムスメだった私にとっては、ぶっちゃけ「よく分からん」映画だった。
年を重ね、結婚もし、あのころより少しはオトナになったはずの今ならきっと。

まったく知らずに行ったのだけど、『まぼろし』の上映は<フランス映画+南仏ワインの夕べ シネマリアージュ>というイベントだったのでした。
チケット買うときお姉さんに「ご予約されてますか?」と聞かれ、なにこの映画館、予約制?とうっすら疑問に思いつつシアター入り口へ向かうと、そこにはワインと美味しそうなチーズが並べられている。
シネマリアージュとはつまり、オトナシネマと、ワイン&チーズのマリアージュwine
予約している人にはワインとチーズを無料でサービスとな。ステキなイベントじゃないですか!
で、飛び込みの私にはワインもらえないのー!?
ワインを配っているお兄さんに物欲しげに質問する私。
300円払えばオッケーってことで、もちろんいただきました。

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数種類のチーズはどれも絶品。ワインも美味し。
ゴルゴンゾーラ大好き。さっぱりとろける水牛のバターとか、んまかったす。
研修後のつかれた身体に沁みた。
思いがけず、優雅なひとときを過ごせてしあわせshine
この界隈のおすすめレストランなども教えていただきました。
福山市は島田荘司先生の出身地、22日には<島田荘司のミステリー劇場>と題し『シャレード』を上映、島田先生が『シャレード』含むお気に入りのミステリー映画を語るというイベントも開催されるようです。
(もちろん、島田荘司選・福山ミステリー文学賞受賞作『少女たちの羅針盤』の映画化アピール兼ね。成海璃子ちゃん主演、観なきゃ)
シネマモード、いい映画館ですな!

てなわけで、ほろ酔い・・・になるにはワインが少量でしたけども、まあ酔っぱらって観るような映画でもないですし、ほどよく気分が上がったところで『まぼろし』

とてもおもしろく観ることができました。
いかようにも解釈できる斬新なストーリー。
10年前の私はたぶん、この「いかようにも」という部分にすっきりできなかったのと、夫のまぼろしを見ながら新しい恋人に抱かれるヒロイン・マリーの心情があまり理解できなかったのだと思います。
あらためて観て理解できたのかといえば、そうでもないんですがsweat02
洗練された大人の女でありながら、どこか地に足のついていない少女のようなマリーを見事に演じたシャーロット・ランプリングの圧倒的存在感、女優力にはやはり魅了されますし、はっきりとした答えが明示される物語だけがおもしろい物語ではないと思えるようになったのでしょう。

ある日突然、愛する夫が目の前から消えてしまい、それは事故なのか自殺なのか、生きてるのか死んでるのか、何も分からない。
優しい夫ジャンと、美しく知的な妻マリー。
子供はいないけれど、いつまでも新婚のように仲睦まじい理想の夫婦。
夫がいなくなる理由なんてどこにもないのに。
マリーの行き場のない困惑は、打ち寄せる波に飲み込まれる。
途方に暮れるマリーの心に、やがて静かな狂気が満ちてゆく。

ジャンは既にこの世にはいないであろう・・・ということは最初から予想できるのですが、まるで夫が生きているかのように友人に話したり、自宅で夫のまぼろしと食事をするマリーは、はたして悲しみのあまり気がふれてしまったのか。
それがそうでもなさそうで。マリーは認めたくないだけで、本当は現実をちゃんと把握している。
だからこそ、自分に気がある男とデートもする。
夫の失踪なんて認めたくない。夫の体の重みもまだ忘れられないのに。
でも本当はもう、認めてしまいたい。
夫と新しい恋人、ふたりの男の手に愛撫されたり、恋人に抱かれながら夫のまぼろしを見たり(自分の元を去った夫へ復讐しているようにも見える)、マリーの複雑怪奇な心理描写がまあ見事。

ジャンはマリーのことをほんとうに愛していたと思う。
だからこそ心を病んでいることを打ち明けられなかった。
なぜならマリーは、理想を追い求める女だから。
表面的には愛し合っているようでも、マリーが愛していたのは理想の夫。(と、理想の自分)
ジャンは愛するマリーのために、理想の夫を演じ続けた。
夫は時折空虚な表情を見せるが、もちろん妻はそれに気付かない。

マリーは夫がいなくなって初めて、その存在の大きさに気付き、ほんとうの夫を見てはいなかったけれど、夫との日常がかけがえのないものだったことに気付く。
やがて、もしかしたら自分のせいで夫は鬱病になり、自分のせいで人生がいやになったのかも・・・という疑惑から目を逸らせなくなり、美しい自分を演じ続けるマリーの自信も揺らぎはじめる。
ようやく夫の死と向き合う決心をするマリー。
その遺体がどれほどひどい状態だったか、映像として映し出されることはないけれど、マリーの表情、「夫の時計じゃないわ」と笑い飛ばすマリーから、それはマリーの許容量を越える、あまりに悲惨すぎる現実だったのだろうと思われます。
マリーはヴァージニア・ウルフの入水自殺のことを「美しい死だわ」と言っていたけれど、現実はけして美しいものではなかった。
そして夫が消えた砂浜で、マリーははじめて泣き崩れる。

書けば書くほど何が言いたいのか分からなくなってきましたが、とにかくこのお話、単にまっすぐ夫を愛していた女の悲劇とは思えず、ラスト夫とおぼしきシルエットに駆け寄るマリーですら、このごにおよんで検討外れな方向へ向かっているようにも見えるのでした。
また10年後くらいに観たいわ。

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コメント

さすがフランス映画!文学的なんですね。
私も十年後くらいに鑑賞したら、すっごい胸に響きそうです。

日本人もかなり一人称のモノローグが好きですよね。心の機微だとか。
私は多感な時期に、三人称視点でキャラクター同士のダイアローグで紡いでいく場合が多いハリウッド映画を見て影響されてしまったのでw、こういう人間ドラマを演出するのは結構鬼門です。
編集者に「きみは映画(おそらくシネマではなくムービー)を基本系にして漫画を描くタイプ」と言われたことがあります。

少女漫画とかは、本当に心の細かいところまで描いているなあ、と驚きます。

kenkoさんの記事もすっごい巧いなあと思います。この映画に対するもやもやした気持ちがとっても伝わりますし・・・


>このごにおよんで検討外れな方向へ向かっているようにも見えるのでした。

最後で笑っちゃいましたw。

投稿: ゴーダイ | 2010年10月14日 (木) 00時33分

ゴーダイ様

ながーいのを読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
もったいないお褒めの言葉まで。私のもやもや、伝わりましたでしょうかcoldsweats01
オチもついてる?(笑)
検討外れな方向・・・たぶんカメラのアングルでそう見えるだけなんですけどねsweat02
けっこうネタバレしちゃってるけど、ゴーダイさんの感想もお聞きしてみたい映画です。
同じフランス映画でも先日観た『男と女』みたいなほわーんとした話じゃなくて
しっかりサスペンスフルだし、おもしろかったです。

一人称だと感情移入しやすく、心のキビも描きやすそう・・・とは思うけど
それってフランス映画的で少女漫画的なのか、正直あんまり考えたことなくて分からないです。
どっちもあんまり観てないし、あんまり読んでないsweat02
私も多感な時期に観てハマった映画といえば、エンターテイメントなハリウッド映画ばかりですよん。

マンガ読んでてたまに、なんか映画っぽい、と思うことあるけど
ゴーダイさんもそのタイプなのかな?

投稿: kenko | 2010年10月14日 (木) 19時08分

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