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イキウメ 図書館的人生vol.3「食べもの連鎖−食についての短篇集−」

Tabemonorensa

夏のヨーロッパ企画以来ひさびさのお芝居は、広島初公演の劇団イキウメ。
前川知大氏ひきいるイキウメは、フィルモグラフィによると近年数々の演劇賞を受賞しまくっていて、現在の小劇場界で最も期待される劇団なのだそう。
恥ずかしながら、観劇後うちに帰ってネット検索するまで、そんなんまーったく知りませんでした。
前川知大・・・という名前は、どこかで聞いたことある気はするけど?
ひとりとして知った顔の役者さんもいなければ、どういう作風なのかも知らず、ただ<イキウメ>という劇団名に惹かれて、これ以上ないくらい前情報なしで観たのですが・・・

めっっっちゃ、よかったー!!!(≧m≦)
ひさびさにお芝居というものの醍醐味を、心ゆくまで堪能しました。

あまり期待していなかったもので、当日までタイトルに<短篇集>と入っていることすら気付いていなかった私。
お芝居は4つの短編で構成されていて・・・といっても共通のテーマが<食>というだけでなく、それらは完全にリンクしており(第2幕だけちょっと違うかな)、4つの短篇というよりは全4幕によるひとつの物語、という印象。
長くなりますが、劇場でもらったチラシに書いてあるあらすじをそのまんま引用します。

♯1前菜「人の為に装うことで、誰が不幸になるっていうんだ?」
料理研究家の橋本和夫に影響を受けた主婦の香奈枝は、菜食に変えて半年経つ。
心身共に爽快な香奈枝は、夫の文雄に菜食の素晴らしさを語る。
文雄の食卓から少しずつ肉が消えていく。
良かれと思ってやった香奈枝の文雄洗脳計画は、突如、底の見えない巨大な谷に飲み込まれる。
「頭で分からないのなら、体に教えてあげる」

♯2魚料理「いずれ誰もがコソ泥だ、後は野となれ山となれ」
万引きのプロフェッショナルである畑山ミノルは、今自分に必要なモノしか盗らず、換金目的の万引きも決してしない。彼は純粋に狩猟採集民族だ。
畑山はある日、懸賞のプロフェッショナルである梅津カエデに出会う。
この女なら自分を理解してくれると思い、梅津の部屋に住み着いてしまう。
「お前に美学を感じる。俺と付き合え」

♯3肉料理「人生という、死に至る病に効果あり」
ライターの甘利は、昨今の老人所在不明事件を取材中、50代で行方不明になっていた医師、長谷川卯太郎を知る。生きていれば115歳だ。
その卯太郎の写真が料理家の橋本和夫に酷似していたことで、甘利は卯太郎と橋本の血縁を疑い、橋本に取材を申し込む。
菜食の料理家、橋本のルーツは食事療法を推進していた医師、卯太郎にあると考えたのだ。
「いや、長谷川卯太郎は私です。今年で115歳になる」

♯4デザート「マヨネーズの別名は、全体主義的調味料」
菜食の料理家、橋本和夫とその助手、五味沢恵は、テレビの料理番組に出演する。
「今日は秋の料理特集、根菜と厚揚げのトマト煮です」

ここまで引用。ここからネタバレdanger
明日は福岡公演ですし、今後DVDなどで観る予定の方も以下ご遠慮ください。

:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+

舞台には稼動式の4つの台が並べられていて、それが場合によって調理台、テーブル、スーパーのレジ台、病院のベッドにもなる。
シンプルな舞台装置を最大限に活用していて見事というだけでなく、その動かし方も、たとえば舞台上の役者さんが演じながらお芝居の流れの中で自然に動かしたりするのですが、さりげなく見えて計算しつくされた動きなのだろうと思う。
こういうのってリアルを求められる映画とは違う、お芝居ならではのおもしろさ。ワクワクします。
背景には、いくつかの窓らしきものと、中央あたりに大きな円形を配した抽象的な現代アートのような絵。
第3幕でようやく、その円がズバリ何なのかが分かる。

わたくしこの日、昼間は『ぼくのエリ 200歳の少女』を観ていたのですが・・・
まさか同じ日に奇しくも。またしても、吸◯鬼にまつわるお話だなんて。しかもどっちも傑作。
いや正確には、こちらは<飲血者>のお話。
第3幕の構成がまるっきしインタビューウィズ・・・だなーとか思って観てたら、ほんとにそうだったsweat02
食の研究者、長谷川卯太郎が辿りついた人類の完全食。それはなんとヒトの血液だった。
飲血し続けることで肉体は若返り、さらには超人的な身体能力まで身についてしまう。
副作用として日光に過敏になり・・・って、やっぱりそれってまんま◯血◯
しかも卯太郎先生、生まれつきニンニクが苦手とな(笑)
日常に潜むオカルティック、それこそがイキウメの作風なんですってね。

第1幕は橋本和夫の菜食お料理教室から始まるのだけど、その時点で既に、ベジタリアンにしては肉食的な攻撃性を放つ橋本和夫に奇妙な違和感がある。
お芝居全体の表層的な印象としては、無機質で淡々として洗練されていて、血なまぐさいものとは無縁に思える。
が!第3幕、肉料理。さすがメインディッシュ。お肉はやっぱり、血のしたたるレアでないとね。

長谷川卯太郎の100年の物語。
インタビュアー甘利が卯太郎の話を聞きながら、まるで彼自身その物語の中に存在するかのような演出も冴えてる。
甘利と同じ立場で、卯太郎の数奇な人生に聴き入る我々も取り込まれる。
卯太郎先生のような飲血者が存在するとして、それこそが語り継がれてきた伝説の真実なのではないか、とすら思わされてしまうほどスキのない脚本に唸りました。
ヒトの血のみを飲んで生きている卯太郎が、なぜいま料理家となって菜食を推奨しているのか。
飲血者とベジタリアン、真逆とも言えるものをこんな風に結びつけるなんて、なんというアイデア。
そりゃ神様でも気がつかないわ。

しかし橋本和夫の恐るべき秘密が明かされたからといって、物語が唐突におどろおどろしくなるわけではない。
橋本和夫こと長谷川卯太郎はインタビュアーに告げる「すべてを終わらせようと思う」
しかし死の訪れは描かれず、終幕はやたら能天気なお料理番組。
ほんとうに美味しそうな菜食レシピのご紹介。
けれど私たちは知っている。
みんなが顔をほころばせて美味しいお料理を食べている横で、なぜ橋本和夫だけが吐き気をもよおしているのかを。
どんな血みどろの修羅場よりも、この物語における真実を際立たせていて見事と思いました。

卯太郎先生は「終わらせる」と言ったけれど・・・やっぱり終わらせられないんじゃないかなぁ。
だってもう、この期に及んでウナギなんて食べられないでしょ、卯太郎先生。
やがて『リング』の呪いのビデオのように、増殖する飲血者の世界を想像しました。
断ち切れない鎖。なんかもう笑いながら鳥肌立った。

「笑い」は全体的にゲラゲラ笑う感じではなく、ところどころでふっと沸き起こる上品かつセンスの良い笑い。
たぶんいちばん笑いがおきてたのは第2幕の万引きの話で、ぶっちゃけよく分からない万引き哲学を貫いてるようで貫かない畑山ミノルのひょうひょうとしたキャラクター、および畑山を演じた安井順平さんのファンになっちゃった人はけっこう多いんじゃないかと思う。もちろん私も。
この話だけ、橋本和夫とどう絡めて考えたらいいのか正直よく分からないのだけど(別に絡めなくてもいいんだろうけど)、食というテーマに万引きをもってくるなんて発想がやっぱり斬新。
第1幕のキレちゃった夫の気持ちも分かるし。いちいち巧いです。

地方での知名度はまだまだなのか、あまり広くない劇場の入りは半分くらいでしたが、お客さんの反応はかなりよかったと思う。
次回公演のタイトル(『散歩する侵略者』)も公演スケジュールも既に決まっていて、そこに広島は含まれていないのだけど、ぜひともまた来てほしいです!
もう断然、イキウメファンshine
前回公演『プランクトンの踊り場』のDVDだけ買ったけど、オトナ買いしなかったことをちょっと後悔。

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