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恋の罪

Koinotumi

『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』の園子温監督作品。
園監督は今年だけでも『冷たい熱帯魚』『恋の罪』『ヒミズ』と劇場公開作品が三本も続く。
一本一本がめちゃくちゃ濃厚にもかかわらず、なにげに多作。
ファンとしては嬉しいことですが。

恋の罪 公式サイト

『冷たい熱帯魚』は「埼玉愛犬家連続殺人事件」をベースにした作品だったけれど、『恋の罪』は「東電OL殺人事件」をベースにしています。
どちらも90年代に実際にあった事件です。

東電OL殺人事件とは、1997年、東京渋谷円山町のアパートで、東京電力に務めていた39歳の女性の絞殺体が発見された事件のこと。
被害者は東電に女性として初めて総合職で入社したエリートだったのに、夜は売春をしていた。それもわずかな金額で。
昼の顔と夜の顔。社会的な地位も充分な収入もあった女性が、よりにもよって何故そんなことをしていたのか。
あげくの悲惨な結末。

この事件をモチーフにしたフィクションといえば、桐野夏生先生の小説『グロテスク』がまっさきに浮かびます。
何度も読み返すくらい好きな小説。桐野作品の中でもいちばん好き。

『恋の罪』では、富樫真さん演じる美津子が、東電OL事件の被害者の人物像にモロ重なる感じのキャラクター。
OLではなく、大学助教授に変更されてはいますが。
そして神楽坂恵さん演じる作家の貞淑な妻いずみも、水野美紀さん演じる幸せな家庭を持ちながら不倫を続ける刑事和子も、この映画に登場する女性は皆、美津子=被害者の分身と言えます。

極端なことを言えば、事件の現場に出向いたあと和子が、地下鉄の列車の中で周囲の女性を見回すシーンがあるけど、あそこで映し出される女性もみんなそうだし、和子がかつて現場に居合わせた路上で自殺した女性(町田マリー)もそう。
母が担当している猟奇事件に興味を示す和子の小学生の娘も、美津子の母も。
そして映画を観ている私たちも。
みんな「女」で、事件の被害者の分身。ん?逆?被害者は、私たちの分身。
まっとうな人生を歩んでいるように見えても、「ぼんやり生きている自分」に気付いてしまった者から順に堕ちていく。
ゴミを捨てそこなって、円山町のあのアパートへ、「城」の入り口へ、辿り着いてしまう可能性を内側に秘めている。女なら誰しもが。
だから美津子やいずみのように、夜の闇で非日常を狂ったように生きる、そんな経験があろうとなかろうと、彼女たちにシンパシーを感じてしまうのです。
うまく言えないけれど、分かってしまう。
うまく言えないのはたぶん、美津子風に言えば、まだ「言葉」に「身体」がともなっていないからだ。
(それとボキャブラリーが貧困で文章力がないからだ)
なんて言うと、誤解を招きそうだけども。

とまあ、ここまで書いておいてなんですが、おもしろかったけど・・・期待したほどではなかったです。
どうしても『グロテスク』と比べてしまう。
やはり桐野先生の小説の方が、事件に対し、フィクションとしてのシンクロ率が高かったように思います。
園監督は男で、事件に対するスタンスも違うと思うし、そもそも同じ事件をベースにしてるってだけで小説と映画を比べるのは間違ってますが・・・
あくまでベースにしてるだけだし、と言われたらそれまでですが、とても好きな話だけについsweat02

やむにやまれず自滅的な行動に出る女たちの、その本質的衝動の理由が、客観的に見てちょっと不鮮明というか、ときどき置いてきぼり感があるんですね、なんとなく。(その点、桐野先生は読者をきっちり終章まで導いてくれる)
ときどき唐突に演劇的すぎる。
笑えるし、そこがおもしろいっちゃおもしろいんだけど。

マネキンを用いた猟奇的ビジュアルの死体とか、あまり意味がなかったのも残念。
やりたかっただけなのはよく分かりますが。好きか嫌いかで言えば好きですし。

しかしながら女優がこれだけ身体を張ってる映画がつまらないわけはなく。(どっちやねん)
冒頭いきなり水野美紀さんのヘアヌードだし、神楽坂恵さんの冗談みたいに立派なおっぱいは大画面に耐えうる迫力。
役作りのためダイエットなどされたのか、富樫真さんのあばら骨の浮いた痩せた身体にはリアリティがある。

神楽坂さんの貞淑な妻から完全なる売女(ってこれまた誤解を招くワードを敢えて)への変貌ぶりはそりゃもう見事で、抑揚のないセリフ回しは演出だと思うのだけど、そこがいい。
男の言いなり、意志のない女。
男たちは、セックスに金を介在させる女を蔑む。
しかしそれこそが、女にとっては解放であるという真理。

美津子の母親役、大方斐紗子さんがまた『冷たい熱帯魚』でんでんを彷彿とさせるインパクトで、さすがに脱ぎはしませんが、上品なセリフの言い回しと穏やかな笑みが誰よりも下品という。強烈。
こんな母と二人暮らしで、美津子はそりゃ狂って当然と思います。

男たちは総じて一見さわやかなのに、よく見ればニヤけた顔が気持ち悪い、そんなのばっか出てくる。
男はどうしようもなくてどうでもいい、解放された女は美しい。
いろいろ矛盾のあることを言いましたが、そんな感想です。


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