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哀しき獣

Kanasikikemono

ナ・ホンジン監督の二作目。
『チェイサー』すごい映画だったもんね。前評判も高く、これは必見。

哀しき獣 公式サイト

主人公グナムを演じるのは『チェイサー』で変態殺人鬼を演じたハ・ジョンウ、主演だったキム・ユンスクも出演しています。
メインキャストが同じで、やはり追ったり追われたりのバイオレンスムービーってことで既視感があるかと言えば全くそんなことはなく、ふたりとも前作とはまた全然違う印象で、作品自体もいっそう深みが増しているように感じました。
ナ・ホンジン監督、デビュー作からして凄すぎたけど、二作目にしてこの風格。タダモノではないね。
特にカーチェイスのシーンがとんでないことになってます。てか、カークラッシュ!
どうかしてるぜ!とツッコミたくなる、近年稀に見る荒ぶるカークラッシュシーンだけでも見る価値あり。

グナムは、北朝鮮とロシアに接する中国領「延辺朝鮮族自治州」で暮らす中国系韓国人。
恥ずかしながらそういう地域があること自体知らなかったのだけど、ソウルなどでは「朝鮮族」と呼ばれ、差別的な扱いを受けます。
グナムは延辺でタクシー運転手として働いていますが、生活は苦しく、ソウルへ出稼ぎに行った妻は音信不通。
周囲は「ソウルで浮気しているんだろう」とか言う。グナムは嫉妬で心をかき乱され、毎夜悪夢を見る。
妻の出稼ぎのために用立てた借金は6万元(80万円くらい)あり、多くない稼ぎを麻雀ですってしまうグナムには払いきれない。
そんなおり、借金取りからある仕事を紹介される。
それは延辺の裏社会を取り仕切るミョン(キム・ユンスク)の仕事で、ソウルへ行ってある男を殺せば借金をチャラにしてくれるという。ついでに妻にも会ってくればいいと。
行き詰まったグナムはミョンの仕事を引き受けることにし、密航船で韓国へ渡る。

dangerネタバレしていますdanger

途中までは、『チェイサー』の方がおもしろかったかなーとか思いながら観てたのですが、グナムが殺す予定の男が別の何者かに殺されてしまうあたりから俄然前のめりに。先の読めない展開。
グナムはヤクザな世界に片足つっこんでるような男ではあったけど、あくまで一般ピープルだったのに、あれよあれよと暴力の連鎖に巻き込まれていく。

そもそも、いくら金のためとはいえシロウトなのに請負殺人?殺したいほど憎い相手ならまだしも、グナムにその殺人に対する情熱みたいなものがないから、なかなか感情移入しにくいわけですよ、それでいいんかグナム・・・とゆう感じで。
しかしグナムが追われる身になってからは、そんなこと考えてる余裕もないほどのジェットコースター的な展開に。
グナムは運がいいのか悪いのか、警察が間抜けなおかげか、危機的状況をしぶとく逃げ延びる。

警察に追われヤクザに追われ、満身創痍のグナムはやがて考えはじめます、なぜこんなことになったのか。
自分が殺すはずだった男を誰がなぜ殺したのか、そもそもなぜ男は殺されなくてはならなかったのか。
いずれ死ぬにしろ、それだけは知って死にたいと。
究極に追い詰められて、やっと浮かんできた疑問。

真実はあまりにバカバカしく、単純で、人間的。ヤクザ同士の抗争争いの方がまだましだった。
いわゆる痴情のもつれってやつ。結局セックスなわけですよ、どいつもこいつも。
グナムだって、妻のことがなければ殺人なんて請け負わなかったはず。
見知らぬ男を相手に乱れる妻を、毎夜夢に見てはうなされていたグナム。
真実を知って、グナムは愕然とする。だって自分と同じなんだもんね。
裏切る女と、嫉妬に狂う男たち。嫉妬という名の狂犬病が、この世には蔓延している。
そんなくだらないことで、自分はめちゃくちゃになった。
てかグナムって結局、ゆく先々で死人は出ているわけだけど、妻に逃げられギャンブルにハマり、殺人も他に先を越される、いや殺人なんてしなくてよかったんだけど、とりえといえばやたら頑丈で生存能力が高いといういわゆる負け犬。なんつーか実は中途半端な男。
そんなんで、バイオレンスと逃亡の果てに辿りついた真実も、そんなんで。やりきれないです。

ラスト、ようやく嫉妬から開放されたグナムは、悪夢の中の浮気する妻でなく、おそらくグナムが最後に見た妻の姿を夢に見る。妻は穏やかに微笑んでいる。
それはかろうじての救いと言えます。

グナムを演じたハ・ジョンウは、どこか怯えた小動物のような目が印象的。チェイサーのときにも同じこと言ったかな。
グナムをとことん追い詰める恐ろしい男ミョンを演じたキム・ユンスクがまた、素晴らしいです。
イマドキの都会のインテリヤクザにはかなうはずもない、手斧を振り回すまさしく野生の獣ですが、そんな生き方であるのは過酷な日々を生き延びるためでしょう。
てか、インテリヤクザがミョンにけちょんけちょんにされるのが、ちょっと爽快だったりもしてね。
大型犬の骨(だよね、あれは)など武器にしていたのは、バイオレンス映画として大変新鮮でした。韓国ならでは!
(むかし韓国に行ったとき、現地で出会ったカワイイ女子高生に好きな食べもの聞いたら犬って言ってた)

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コメント

パンニハム、ハサムニダ!
kenkoさん、こんばんは。そういやこないだ韓国行ってこられたそうで。やっぱり焼き肉美味しかったですか? ワンちゃんは食べましたか?(いやーん)
グナムの破滅のきっかけは、結局美人の奥さんを持っちゃったことが原因かもですね。これがブスの奥さんだったら浮気の心配もなく、あんなにも悶え苦しむこともなかったろうに… 美人と結婚するのも考え物だと思いました(決して負け惜しみでは、あります)

奥さんといえばエンドロール途中に入るあのカット、「実は奥さんは○○○いた」とする説と「お話が始まる前の、奥さんがソウルに着いた時のシーン」とする説があるそうですが、kenkoさんはどっちだと思います?

投稿: SGA屋伍一 | 2012年3月10日 (土) 23時03分

SGA屋伍一様

オヘンジオクレテスマンニダ!
焼肉おいしかったでーす!食べてばかりの旅でしたが
ワンちゃんは食べてないよぅbearing

確かにね、グナムにはもったいないほどの美人の奥さんでしたもんね。
心のどこかで自分には不釣り合いだと思う気持ちが、いっそうグナムを苦しめたのかもと。

エンドロール途中のカットについては、私は普通に前者の方と思いました。
お話が始まる前の・・・とは思わなかったなー
奥さんに生きててほしいと願うグナムが死の間際に見た幻想・・・とか。

投稿: kenko | 2012年3月14日 (水) 23時40分

超クールでカッコイイ「アジョシ」と違い、手斧!牛刀!獣の骨!で
刺す!ぶん殴る!闇ブローカーのミョンが暴れまくるシーンでは
ダダンダダンダンという「たーみねーたー」のテーマが脳内に流れました。
シュワちゃんみたいな完璧な肉体を持つ偉丈夫ではなくて、腹のたるんだ
オッサンにすぎないのにストッパーの無い殺戮マシンなのね。
ミョンの規格外の凶暴さを前に、なすすべもないバス会社の社長さん。
下には威張りちらす小物の役が本当に上手かった。可哀そうなソンテクさんはアジョシで刑事の役で出ていたような。延吉まで乗り込んだはいいが
ミョンに返り討ちにされ、完全に毒気を抜かれ、さらにグナムにも。

投稿: 奈良の亀母 | 2012年6月15日 (金) 11時56分

奈良の亀母様

こちらにもコメントどうもです!

うんうん、ミョンはまるでターミネーターでしたね。
しかし見た目はただのオッサンであるところが、ターミーシュワちゃんとはまた違う怖さで。
ミョン役のキム・ウンスク、この役のために体重増量とかしたんでしたっけ。

バス会社社長役の人も上手かったですねー
『アジョシ』には刑事の役で出てましたか。覚えてないやbearing

投稿: kenko | 2012年6月16日 (土) 15時22分

再コメすみません。最初観た時はミョンのあまりの存在感に
主人公の筈のグナムが霞んでしまいましたが、この男も韓国に
密入国してからは、どんどんスーパーマン化していくんですね。
同じ民族と言語だとはいえ韓国はグナムにとって外国なわけで。
殺す相手の張り込みも「初めてのおつかい」状態。「二時半、三時半」
「親指、親指」とか。それが殺人の先を越されて山に逃げるあたりから
お前はゴルゴか!という・・・。タクシーの運転手さんというのは
地図を見ただけで初めての土地でも迷わないのかしら。方向音痴の
自分には神業ですわ。レンタルの映像特典で人物相関図がついていて
自分はやっと二つの殺人依頼がバッティングしたことを理解しました。
どんだけ恨まれてんねん、教授。

投稿: 奈良の亀母 | 2012年6月22日 (金) 12時25分

奈良の亀母様

またしてもレス遅すぎでごめんなさい。。。
コメントありがとうございます!!

そうそう、殺人の先を越されてからグナムはどんどんゴルゴ化していって
映画としてもそこら辺から俄然おもしろくなっていきますよね。
そのへんまでは、チェイサーの方がおもしろかったかなー?と思いながら観てました。
私も方向音痴なので、外国同然の場所でiPhone的なものも無しに
グナムのように行動するのありえないですsweat02

私も最初、いったいどういう状況なのか観てて混乱しました。
DVDの映像特典には人物相関図がついてるんですね。親切!

投稿: kenko | 2012年7月 8日 (日) 09時33分

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